超上流要求工学

 

平成24年度シラバス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

201215

 

 

国立情報学研究所

トップエスイープロジェクト

代表者 本位田 真一

 

1.     講座名

 

超上流要求工学

 

2.     担当者

 

妻木俊彦,中谷多哉子

 

3.     本講座の目的

 

これまで,要求工学の中心テーマは,クライアントの要求を正確に理解し,それを,設計者に伝えるための要求仕様書を作成することであった.そこで要求される技術は,妥当で,完全で,曖昧性がなく,一貫性のある要求仕様書を如何にして作成するかということであった.しかし,近年,ソフトウェアを取り巻く環境の変化は,ニーズの多様化と変動性という新たな問題を要求工学に突きつけている.初期フェーズ要求工学という新しい概念が生み出され,これまでの要求工学の技術に加えて,ステークホルダの意図を如何に発見するかと言うような新たな試みも始まっている.しかし,ニーズの多様化と変動性に対応するためには,ステークホルダの意図という視点をさらに一歩進めて,ニーズの発生場所であるビジネス環境そのものを理解し,そこに発生している問題を解決することが必要となる.これまでのドメインモデリングからビジネスモデリングを志向しようと言う動きの裏には,要求工学の現状への危機感がある.しかし,情報システムの上位システムであるビジネスをモデ化するには,単に,対象世界をモデル化するだけでは済まなく,経営学や対象業種に対する専門的な知識をもとに,その世界が抱えている問題を理解し,適切な解決策を打ち出す能力が求められる.ビジネスモデリングのための知識や技術は,伝統的なソフトウェア工学の領域を超えたものである.しかし,現実世界と向き合わなければならない要求工学は,それが必要なら.既存の技術の枠組みを超えた学際的な挑戦を続ける必要がある.

本講座では,はじめに複雑な問題の理解や解決に必要とされる思考法について概観し,実際の問題を解決するための論理的な思考体系を学習する.さらに,その応用編として,著名な発想法を取り上げる.そこでは,現実世界の持つ多様性への対応の仕方や,そこに隠されている意味の世界を理解し,創造的なアイデアを生み出すための方法について学ぶ.そして,最後に,多様性と変動性を視野に入れた情報システムを構築するための前提としてのビジネスモデリング法について学習する.

 

 

4.     本講座のオリジナリティ

 

本講座は,これまでの要求工学のさらに上流をカバーするものであり,伝統的なソフトウェア工学の枠組みを超え,知識工学,システム工学,民族学,オペレーションズリサーチ,経営学などに関する知識や技術を含む.さらに,ここで取り上げるそれぞれの手法は,それ単独で1つの講座を形成するほどの内容を持っており,これらを単一の講座で取り上げることは,ある意味で危険な挑戦であるとも言える.学習者は,個々の手法についての十分な理解を得るためには更なる学習と訓練が必要である.しかし,これらの技術を1つの視点からまとめて学習することによって,多様な問題に対応するための基本的な技術を理解できるという利点もある.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5.     本講座で扱う難しさ

 

本講座で扱う難しさの第1番目は,論理的な思考力や豊かな発想力の形成である.思考力は学習しただけで習得できるものではない.実際の問題にあたって,腕を磨かなければ上達しない.しかし,本講座内では,そうした技術の習熟にまで時間をかけることはできない.本講座で学んだ技術を日々の生活の中で意識的に使用する努力が求められる.

本講座で扱う難しさの第2番目は,広範な知識や技術への対応である.個々の手法はそれなりの複雑さを有しており,時間内に演習が終わるとは考えにくいし,演習の過程で多くの疑問や障害が発生することが予想される.如何に講師を有効に使うかが,効率的な学習の鍵である.


6.     本講座で習得する技術

 

本講座では、複雑で多様な問題を理解し,豊かな発想を使って問題を解決するための技術の習得を目指す.また,本講座では,多様な技術の習得のためにグループ演習を活用する.

学習内容は,以下の通りである.

 

1.問題解決法とその体系

1.1     問題の理解

1.2     解法の発見

1.3     思考法

2.ロジカルシンキング

2.1 書く技術

2.2 考える技術

2.3 問題解決の技術

3.KJ法

3.1 データの分類

3.2 A型図解

3.3 B型文章化

4.ソフトシステムズメソドロジー(SSM)

4.1 基本定義と文化的探究

4.2 社会システム分析/政治システム分析

4.3 望ましく,実行可能な変革

5.ビジネスドメインモデリング手法(RODAN)

  5.1 ステークホルダ分析の意義

  5.2 リッチピクチャによる状況の理解

  5.3 役割依存関係の分析による問題の発見

  5.4 CATWOE分析による意図の発見

  5.5 ゴール所有者に着目したビジネスゴールの発見と分析

6.ビジネスモデリング

  6.1 UMLを用いたビジネスの現状のモデル化

  6.2 ビジネスの革新,改革手段の発見

  6.3 ビジネスモデルによる改革の評価

 

 

 

 

7.     前提知識

 

本講座の受講生は,以下の項目を受講済みあるいは習得済みであることが望ましい.

       ゴール指向要求分析

       UMLによるオブジェクトモデリング


8.     講義計画

 

1~2週 問題解決法とその体系

·            問題解決のための発想法

·            個別演習

第3~4週 SSM

·   基本定義と文化的分析

·   論理に基づく分析

·   グループ演習

第5~6週 KJ法

·            情報の分類,グルーピングと構造化,物語化

·            グループ演習

第7~8週 ロジカルシンキング

·            問題の定義,ゴール分解,論理思考

·            グループ演習

第9~10週 ビジネスドメインモデリング手法(1)

·            ステークホルダ分析,リッチピクチャ

·            グループ演習

第11~12週 ビジネスドメインモデリング手法(2)

·            役割分析,CATWOE分析,ゴール指向分析

·            グループ演習

第13~14週 ビジネスモデリング

·            ビジネスの現状のモデル化

·            ビジネスの革新,改革手段の発見

·            ビジネスモデルによる改革の評価

·            グループ演習

第15週 ビジネスモデリング

·            発表と議論


8.  教育効果

 

本講座を受講することにより,要求工学技術者が直面している要求の多様性と変動性を克服するための基礎技術を理解することができる.本講座を通して得られた技術は,実際の現場での経験を通して繰り返し磨きをかけることによって,本物の技術として定着するであろう.


10. 使用ツール

 

本講座では,特段のツールを使用しない.

 


11. 実験及び演習

 

それぞれの手法ごとの演習及び,総合演習を実施する.

 
12.
評価

 

各演習の作業成果物,討論,レポートの評点を総合して評価する.


参考書

 

(1)        バーバラ・ミント「考える技術・書く技術」,ダイヤモンド社,1999.

(2)  川喜多二郎「発想法」,中央公論社,1967.

(3)   川喜多二郎「続・発想法」,中央公論社,1970.

(4)  P.チェックランド他「ソフト・システムズ方法論」,有斐閣,1994