トップエスイー受講生座談会
トップエスイーを実際に受講している人は,どのようなきっかけで受講を始め,日々どのように知識・技術の習得に取り組んでいるのでしょうか. 第6期受講生の方にお集まりいただいて座談会を行い,本音を語っていただきました. ご参加くださいましたみなさまは以下の通りです(五十音順).司会は国立情報学研究所GRACEセンターの河井理穂子が務めました.
- 大新 智行 さん:株式会社クレスコ エンベデッドソリューション事業部第一部.入社10年目.
- 古賀 陽一郎 さん:株式会社東芝 ソフトウェア技術センター ソフトウェア設計技術開発担当.入社5年目.
- 小林 秀典 さん:キヤノン株式会社 ソフトウェア基盤21開発室.入社6年目.
- 新居 雅行 さん:個人事業主システム開発業者
- 野尻 周平 さん:株式会社日立製作所 横浜研究所 情報サービス研究センタ サービスイノベーション研究部.入社6年目.
受講のきっかけ
司会:本日はみなさま,お忙しい中お集りいただきありがとうございます.受講されているみなさんに,トップエスイーに関する率直な感想,講義の様子などをお聞き出来ればと思っています.よろしくお願い致します. まず,それではみなさんに,トップエスイーの応募のきっかけを簡単にお伺い出来ればと思います.まず,小林さん,お願いします.
小林秀典さん(以下,小林):キヤノンの小林です.私の会社は,トップエスイーの協賛企業となっていることもありまして,毎年トップエスイーにはお世話になっています.私もトップエスイーを受講した先輩方の話を聞いて,是非受講をしたいなと思いまして,応募しました.また,現在の業務では,低層の技術といいますか,OS関係の実装を行っているのですが,これから先の技術の発展を考えたときに,このままでずっといけるのかな,と思うところがあります.技術を深く知るためには,共通の言語といいますか,他の人が考えているようなことを知るためのとりかかりになるような技術を知る必要があると思いまして,そのためにはいい機会なのではないかとトップエスイーの受講を希望しました.
司会:希望すると受講させてもらえるのですか?
小林:いえ,人気があるので選考があって,毎年希望者が全員行けるわけではないです.私の所属している部署は特定の製品を作るところではなく,いろいろな製品に使える技術を先行開発する部署なので,新しい技術に興味がある人が比較的多く,このような機会を与えられると,外へいって学ぼうという意欲の高い人が多い気がします.
司会:ありがとうございます.それでは,続けて,野尻さんお願い致します.
野尻周平さん(以下,野尻):日立製作所の野尻です. 弊社の総務部からトップエスイーを受講してみないかということでお話をいただいたのが直接の受講のきっかけです. 弊社では,トップエスイー第1期から毎回受講生を数名送らせていただいています. また,現在私は研究者としてソフトウェアの生産性について研究をしていて, ソフトウェアを速く作りながらも品質を担保することをテーマとしています. 私個人としましては,形式手法,要求獲得分析,品質を定量的に測るメトリクスなどを学びたいと思って,受講を希望致しました.
司会:ありがとうございます.それでは,大新さんお願いいたします.
大新智行さん(以下,大新):株式会社クレスコの大新と申します.第5期からトップエスイーの協賛企業になっています. 去年に続いて今年も続けて受講生を送りたいということで,私がお世話になることを上司が推薦してくれました. 私としては,講義についていけるのか,また業務から若干離れる部分もあるので勘が鈍るのではないかなどという不安もありましたが,せっかくの機会なので受講を決めました. 弊社はSIerでありまして,他社にない強みを何か持ちたいというものを日頃から私自身もまた上司も感じており,トップエスイーで学べる要素技術は強みとなっていくのではないか,コアコンピタンスのひとつとなっていけるのではないかと思って,受講を希望しました.
司会:派遣される年次などは決まっているのですか?
大新:選考プロセスは,私には良くわからないのですが,私は10年目で,去年トップエスイーを受講させて頂いたのは,私の2年後輩となります.
司会:ありがとうございます.それでは,新居さん,よろしくお願いいたします.
新居雅行さん(以下,新居):新居です. 私は自営業で,半分はトレーニング等を中心としたコンテンツ教育関係,半分が受託開発,個人のデバロッパーとして働いております. 他の受講生のみなさんと比べて年齢も一回りくらい上で,大学で勉強したのもかなり前になっているので,とにかく勉強をしたいと思って受講を希望しました. 勉強ならどこでもできるのですが,一般に良く開催されているいわゆる勉強会にも参加したことがありますが,玉石混淆という感じです. また大学院というのも働いている身としては,なかなか通って勉強し続けるのは難しいのが実感です. そんなとき,情報処理学会でトップエスイーのチラシを見つけ,応募を致しました. トップエスイーだと一応講義が夜ですし,電車がある時間に終わりますから (笑)

(左から)古賀 陽一郎 さん,
新居 雅行 さん,大新 智行 さん
司会:なるほど,ありがとうございます.それでは,最後に古賀さん,お願いします.
古賀 陽一郎さん(以下,古賀):株式会社東芝の古賀と申します. 入社5年目です. 毎年私の部署からトップエスイーに1人受講生を出しているのですが,今年は私が選考されて来ています. トップエスイーを受けた先輩方から,形式仕様,モデル検査技術などというものがあって, 半分自動的にソフトウェアの構造的問題を洗い出してくれるのだと聞きました. あたらし物好きなのでそのようなことに興味があるので,勉強しようと思って受講を決めました. いままでの業務で,テスト工程に適用するフレームワークを作っていた時期があったのですが, ソースコードの規模に対してテストが大きすぎるのではないか, もっと効率的にできるのじゃないかと疑問に思っていました. トップエスイーを受講した先輩方が,モデル検査の網羅的な探索を導入すればよい というような話をしていたのを聞いて,私もやってみて技術を習得したいと思っています.
講義の感想
司会:ありがとうございました. それではみなさん,具体的に実際に講義を受けてみた感想はいかがでしょうか.
小林:モデル検査の講義で,特に計算量の把握が難しいなと思っています. 講義の例題は,解ける例題を課題として提示してもらうのですが,実際自分の職場に持ち帰った時どうなるのかなと,感覚的につかめてない点があって,その点が難しいなあと思っています.
大新: 実用性についてですけど,講義を業務にどう活かすかを考えるのが,受講生のミッションではないかなと思っております. 講義で教わった内容がそのまま業務に適用できるということは考えにくいので, そのギャップを埋めるのが受講生の仕事なのかな,と.
小林:そうですね,確かにその難しさについては,講義の際に他の受講生とグループ演習,議論する機会があって,そこで方向性の話などをみなさんと話していくと自分なりの答えが出る場合もありますね.
司会:演習の時間は,講義と業務での実践をうめる第一歩と云う感じなのですね.ありがとうございます.野尻さん,いかがですか.
野尻:私は企業の研究者なのですが,アカデミック側の研究と企業でやる研究とは違うと思うんですね. アカデミック側は,実適用とは関係なく,シーズというんですか,研究されていて,企業側はその中で実践に活かせるものを研究するというスタンスです. トップエスイーは基本的にはアカデミック由来の技術を取り上げていて実践を謳っているのですが, では,ホントのホントの実践をやるかといえば,そうではないと思います.
司会:トップエスイーの講義と実際の業務にはギャップがあると?
野尻:いやもちろん,実践的に使えるようにと,いろいろトップエスイーの講義は工夫されていると思います. しかしむしろ,企業の研究者の立場からすると,実はトップエスイーで学べる理論的背景が魅力的です. 例えば,「基礎理論」は,本当にかなりいい意味での衝撃を受けました. 15回の授業で,理論的背景を学んで,おぉ,こんなにすごい世界が広がっているのか,と衝撃を受けました.
小林:似たような感じを私も感じました. 「基礎理論」に比べて,他の授業では理論的なさわりを学んだらすぐ演習になったという印象を受けます. もっと理論的背景,アカデミックな背景を学んでもいいかなとは思っています.
大新:アカデミックなのを15回やって,さらに実践15回というのが理想かもしれませんが,1年という短い期間内で行うのは難しいかもしれません.
古賀:そうですね,基礎理論はホント進みが速いですね. 僕は大学は情報系なのですが,それでもトップエスイーの基礎理論を受けたときは,衝撃でした. 大学では教えてはくれない,理論的基礎がこんなにあるあんだと,衝撃を受けました.
大新:みんな衝撃受けてましたよね (笑)
野尻:ほとんどの人が衝撃を受けたのは, 基礎理論だと思いますよ.
大新:修了生もそういってますね.
古賀:確かに基礎理論から講義につながってはいますけれど, 基礎理論の調子で進んだら大変なことになるなあって印象だったですね.
新居:まぁ,あのスピードであの密度で基礎を1年間っていうのはかなり辛いと思いますけどね (笑). 現状のボリュームが限界かと・・・ (笑).
司会:理論的な背景についての講義である基礎理論を受けてみて,その後の業務に役立ってますか?
古賀:そうですね.ものの見方が変わりました. 基礎理論だけではなく,設計モデル検証(基礎)を受けてですね, 設計モデル検証の最終課題は,徹夜でも課題が終わらないくらい大変だったんです・・・(笑). でもその後,業務で設計をする際に,ここでデッドロック起こすなとか, 注意しておかないとまずいなっていうのは分かるようになりました.
新居:基礎理論でやったようなことをちゃんと理解してないと, ホントの意味では理解は出来ないんではないかなと思います. そうでないと,ノウハウ本で学ぶ範囲で終わってしまうのではないでしょうか. 何年に一回は,ああいう(基礎理論のような)講義は受けたほうがいいのかなと. 基礎理論は最初の1週目が特に大変だったです.
野尻:そうですね,ブートキャンプですね (笑).
司会:基礎理論が全ての基礎に本当になっているんですね.コースインタビューでも多くの先生が基礎理論は重要とおっしゃっていました.
大新:あ,そうそう.2月から基礎理論は受けたほうがいいですよ (注1). 4月からの講義と並行して受けるのは相当大変だと思います.
一同:そうですね,絶対2月に受けたほうがいいです!
古賀:それと,基礎理論は,講師とのレスポンスがいいです. 講師からのレスポンスがないと,自分が間違っていたのか,合っていたのか,不安になります. 並行システムの磯部先生もコメントをすぐ返してくれて,本当に良かったです.
司会:他には,印象に残っている科目はありますか? これを受けてみて良かったというのはありますか?
新居:パターン,オブジェクト指向はおもしろかったですね.本で読んでも得られない事が多いです.
大新: 鷲崎先生 (注2) の講義は面白いですね. あの分野の第一人者の先生の講義を受けられるのはそれだけでも嬉しいです. 基本的に本で読んでも得られる知識は省いて講義をされますし.
新居:私は小さい開発が多いのですが, デスマーチが鳴っているところに入っていくんですけど (笑), 去年もある仕事をやっていて,この春くらいにほぼ破綻しました. ソフトウェアメトリクスの講義で,コード行数に応じてドキュメントにかかる工数と開発にかかる工数がこういうふうに増えていくという表があったのですが,もうその通りになっているんですね (笑). この段階だと作ったコードは何千行だったのに,今の段階は何万行で, この体制だと破綻するという説明をお客さんにすることができました.
司会:そういう役立て方もあるんですね.
新居:そうですね,ものすごく役に立ちました.その説明でお客さんのエラい人が納得してくれて,体制を立て直してくれました.
修了制作
司会:ありがとうございます.続いて,修了制作は,いかがですか?みなさんそろそろ始められていますか?
野尻:最近,やり始めました. テスティングとメトリクスの組み合わせによって,テストの効率化を図ろうというもので, 阿萬先生と野中先生にご担当いただいています. 品質保証関係のところを自動化できないかなという問題意識をもって講義を聴いていたところ, お二人の先生の講義を通じて,そして普段の業務を通じてテーマを考えました.
司会:他のみなさんはいかがですか?
小林:自分の興味だけで踏み切れないというのはあります.職場のみんなと相談することになると思っています.みなさんはそんな感じではないですか?
大新:私の場合は,社内で相談とかはないですね.今後の仕事として広がりそうかなと思うテーマにしたいと思っています.
司会:考えつきそうですか?修了制作というのは,結構時間がかかりそうですが・・・.
大新:考えないようにしてます (笑),というのは冗談ですが. モデル検査,形式仕様ですね.自分の今後の仕事の考えると.
古賀:僕は,修了制作のテーマは自分で決めなさいと言われていますが,現在は実装モデル検証の内容で始めています. ちょうど今,自分が現在主担当で作っているシステムがあるので,ネタにしたいなと思っていました. もう一つは,テスト関係のことを業務でやることが多いのですが,テストが際限なく増えて行く, テストデータを作るのにすさまじい時間がかかって,ソースコードの規模を遥かに超えているという状況がどうにかできないかという問題意識がもともと私にはありました. まずは,自分のシステムでこんな賢いやり方があるんだよというのを実現してみたいですね. 実装モデル検証で学んだ事を自分の作っているシステムに実装して, それプラスαが何かできればと思っています.
新居:来年度実施の予定 (注3) なので,まだゆっくりしています. 自分の仕事でWebアプリケーション用のフレームワークを作っていますので, そこをアーキテクチャにからめたものを修了制作にしようかと.
小林:私も来年度です.
時間のやりくり
司会:さて,少し話しは変わりますが,トップエスイーと会社の業務との両立のコツはありますか?
小林:私はほとんど問題はないのです. 定時が5時なのですが,外出扱いでちょっと早めに出ています. 製品開発に直接関わっているわけではないので,時間を自由にコントロール出来るというのはあります. ただ,今年のサマータイムはつらかったですね. 7時半出勤で,夜遅くまで講義で,5時間睡眠とかはありました.
古賀:基本的に裁量労働制ですからあまり問題はないですね.
野尻:私は業務扱いで来てますが,講義で22時過ぎれば深夜残業をつけられます (笑).つけませんけど.
新居:この業界は夜型なので,割と遅いのは平気ですね.
野尻:夜にこれ(トップエスイー)があるので,この業務はこの時間内に終わらせなければと,タイムボックス効果と云うんですか,自然に自分でコントロールしているところはありますね.
新居:意外に平日というのが来やすいというのがあるのかもしれません.土日だと,トップエスイーのためにわざわざ出てくるのか,となってしまいますからね.
受講生間の交流
司会:みなさん,全体として講義は楽しく続けられるという感じですね. 他の受講生との交流はありますか?
小林:2コマ続きだと終わるのが遅いので厳しいですが,1コマしかないときや,たまに土日に講義がある場合などは,割とみなさんとそのままの流れで飲みに行くことは多いですね.
野尻:特にまとめてくれる人がいるときは,必ずといっていいほど飲みに行きます (笑).2学期の後半から毎授業後に飲んでます (笑).
司会:飲み会で得られることは?
野尻:私といる業界と違う人と話が出来るのは,面白いです. 例えば,私はIT系ですが,建設業界の方もいらっしゃったりと,単純に異業種交流が出来て,人脈も広がり面白いです.
司会:交流という意味では,グループ演習のときはいかがですか?
大新:グループ演習で,他の受講生と話をしていて,考え方が全然違うことがあって自分の考え方狭いなあって思うこともあります.私は組み込み系なのですが,エンタプライズ系の方とも話す機会があって,考え方広がりますね.
新居:演習を行っていて思うのですが,割とみなさんタイムマネジメントが出来てますね.そして演習は単純に楽しいです.
小林:そうですね,トップエスイーの受講生は,レベルが高いだけでなく,協調性の高い人が集まっている気がしますね.
業務適用への展望
司会:トップエスイーでの経験は,現在業務に活かされていますか?また今後活かされそうですか?
古賀:講義を受けた後は,業務に対して見る目がかわって,理論立てて見ることが出来るようになってきたと思います.将来についてですが,講義の内容をそのまま適用しようと思っても,うまく適用出来ないと思うので,何らかの応用をして行きたいとは思っています.修了制作でその辺を今後考えて行ければとも考えています.
新居:私は本当に開発を仕事にして3年くらいなので,本格的な大きな開発はしたことはないので,そういう意味では講義を受けて,またグループ演習をして相当世界が広がりました.
大新:講義が業務に活きると云う話では,まだ直接的には出来ていない状態です.今後どれだけうまく適用していくというのが,私の仕事だと思っています.2,3年のスパンが必要になってくると思います.
野尻:私は,製品に何か技術を乗っけるというものではなく, 新しい技術をどうやって現場適用にするのか考える段階の仕事をしています. 周りの研究者は,新しい技術をやっている人がたくさんいます. 形式手法,モデル検査,要求獲得,コンポーネントのパターンなどの言葉が分かるようになったというのが大きいです. 以前は,「インターリービングモデルで,・・・」と言われても分からなかったのですが, 今はだいぶ通じるようになってきました.
大新:他のことをやっている人と話ができるというレベルでも大事なことだと思います.
小林:私の業務は,低層の段階,実装よりなので,すぐに使えるとは思っていません. けれど,他の方が言ってることが分かるようになるのは大きいと思います. 例えば,全然違う分野で研究されてきたものが,自分の分野で適用できるということが割とあって,その場合に他の分野の考え方や,もっと言えば言葉が分かるというのはとても大きいですね. 今回は所属している部署から私だけが来て,いろいろ学んでいるのですが, 一人が学んだだけでは効果が拡がらないと思うので, 部署に持ってかえってチームでもんでいく.実際に受講の効果が業務にあらわれてくるまでにはおそらく3年くらいかかるでしょうね.
司会:みなさん,本日は貴重なご意見を頂き,ありがとうございました.
(2011年9月26日.国立情報学研究所にて.)
注:
*1: トップエスイーの講義は正式には4月から開始されますが,開講前の2月から3月にも,基礎理論などいくつかの講義が受講できます.
*2: コンポーネントベース開発,ソフトウェアパターン,アスペクト指向開発などを担当.
*3: 2011年度から,1年間は講義の受講に集中して,修了制作を翌年度前半 (正確には3月から8月までの3ヶ月以上) に行うことができるようになりました.
