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要求工学コース
要求工学とは
要求を定義するプロセスは,ソフトウェア開発の中で,これから作成しようとしているソフトウェアの意味を定義するための唯一のプロセスです.現実という開かれた世界を分析の対象とし,その中で必要とされる活動を発見し,コンピュータという限定された仮想世界での実現方法を定義するのが要求定義という作業です.現実世界と仮想世界という2つの異なった世界の接点に位置しているゆえに,その作業には,ソフトウェア工学にとどまらず,システム工学,知識工学,人間工学,民族学などといった多岐に亘る様々な技術が含まれることになります.こうした技術の集合を要求工学と呼んでいます.要求工学が学際的な技術領域であるといわれる由縁です.しかし,これらの技術を,断片的に習得しても,それだけで適切な要求の定義が可能となるとは限りません.実際の要求定義作業では,直面している問題とともに,その問題を抱えている問題領域やプロジェクトのメンバーの特性,定義すべき要求のタイプなどによって適切な技術を選択し,それらを組み合わせて適用する必要があります.また,既存の手法が役に立たないような未知の問題に対しては,要求技術者の豊かな発想力が必要とされます.要求工学を学ぶことの楽しさは,その多様性と奥の深さに触れるところにあります.
要求工学コースで習得する技術
本コースでは,これらの技術要素を,対象領域の性質と分析のための視点という2つの直交する軸によって,ドメイン分析型,シナリオ型,ゴール指向型,発想支援型という4つの技術領域に分類し,それぞれの技術分野での代表的な手法を系統的に習得することを目標としています.
本コースで育成する人材
要求工学コースが目指している人材は,自らの力で問題を解決できる能力を持った技術者であり,単に手法の使い方だけを知っている技術者ではありません.世界は益々複雑化し,情報システムの適用領域も拡大してゆくに違いありません.そこで必要とされるのは,基本的な技術や手法はもちろんのこと,そうした既存の技術が役に立たないときに必要とされる応用力だからです.
講義概要
本コースは,基礎,専門,応用の3つの講座群から構成されています.それぞれの講座群の学習目標とその内容は,以下のとおりです.なお,講座群が進むにしたがって,より実践的な内容となりますので,学習者の積極的な参加が必須となります.
基礎講座群
学習目標:専門技術者の指導の下で,個別の要求定義作業を可能とする基礎的な技術の習得
学習内容:要求工学の基礎的な知識,特に要求獲得と要求仕様化に関する技術を中心にした学習
- [ 要求定義講座 ] 要求工学基本概念,プロセスモデル,要求仕様,要求仕様書等
- [ 要求獲得講座 ] 要求獲得技術体系,ステークホルダ分析,要求抽出技術等
専門講座群
学習目標:基礎技術者を指導しながら,通常の要求定義作業を遂行するための専門的な技術の習得
学習内容:要求分析のためのモデル化技術であるドメイン分析,シナリオ分析およびゴール指向分析における代表的な手法と考え方
- [ ドメイン分析講座 ] 概念モデリング
- [ シナリオ分析講座 ] ユースケース法,クレーム分析
- [ ゴール指向分析講座 ] KAOS法,i*法
応用講座群
学習目標:複雑かつ広範な問題領域における要求定義作業に必要な高度な応用技術の習得
学習内容:問題領域あるいは問題そのものを理解するのに必要な,学際的な分析技術の学習
- [ 安全要求分析講座 ] 社会環境分析,HAZOP,CommonCriteria
- [ ビジネス要求分析講座 ] ビジネス戦略,ビジネスモデリング
- [ 超上流要求工学講座 ] SSM,KJ法,ロジカルシンキング,問題指向分析法
講義詳細
要求定義 [基礎科目群]
- 講師: 位野木万里,白銀順子(予定)
- 8コマ,1単位
本講座では,要求定義作業で必須となる基本的な用語や概念について学習します.ソフトウェアライフサイクルにおける要求定義の意味,機能要求と非機能要求,要求と要求仕様の違い,要求変更に対応するための反復型要求定義プロセスモデルなどの知識習得が学習の中心となります.また,要求仕様書の記述方法については,IEEE std.830に基づいた具体的な記述法について学習します.
要求獲得 [基礎科目群]
- 講師: 中谷多哉子,白銀順子(予定)
- 8コマ,1単位
本講座では,要求定義作業中でも中心的な活動である要求獲得の基本的な技術に焦点を当てて学習します.要求獲得のための技術は多様であり,適切な手法の選択はプロジェクトにとっての最大の課題です.要求獲得技術の全体像と共に,ステークホルダ分析やインタビューといった情報収集及び要求抽出のための基本的な技術,セキュリティを中心とした非機能要求分析などを,簡単な実習を交えて学習します.
ドメイン分析 [専門科目群]
- 講師: 友野晶夫
- 8コマ,1単位
ドメイン分析は要求分析技法の1つで,問題領域の概念構造をモデル化する方法です.問題を理解し,それを解決しようとしたとき,その領域を構成している個々の要素の概念を理解することは極めて重要です.しかし,同一構成要素であっても,それを捉えようとすると異なった容貌,すなわち概念を示す場合があります.概念の選択が概念モデリングにおける中心課題であり,それを制御と捉えることによって概念モデリングを理解します.
シナリオ分析 [専門科目群]
- 講師: 位野木万里,妻木俊彦
- 8コマ,1単位
シナリオ分析も,要求分析における重要な技法の1つです.問題領域内の動的な変化に焦点を当てて,その構成要素の振る舞いを時系列に記述することによって問題領域をモデル化します.シナリオは,自然言語によるテキストだけでなく,図式を使ったチャート図やマルチメディアによっても記述することができます.本講座ではユースケース分析を中心に,クレーム分析などを通して,問題が解決した後の将来像を描く方法を学習します.
ゴール指向分析 [専門科目群]
- 講師: 中村太一,妻木俊彦
- 15コマ,2単位
ゴール指向分析は,個々の要求のもとになっている上位の要求をもとに,本来あるべき要求を探索するための手法です.本講義では,典型的なゴールモデルの操作を通して要求を導出するKAOS法と,それを活動目標に写像して構成要員の意図を明らかにするi*法を取り上げます.KAOS法は,ゴール指向要求分析にとって必須の手法です.また,i*法は,初期フェーズ要求分析法とも呼ばれ,問題領域の本来の姿を描くために,通常の要求獲得作業を始める前に実施されます.
安全要求分析 [応用科目群]
コンピュータとそれを制御するソフトウェアは,今や,われわれの生活のインフラストラクチャとなり,その安全性は,地球上に生活するすべての人たちに係わる重要な問題となりつつあります.本講座では,単にソフトウェアを保護するためだけのセキュリティから,さらに一歩前進し,社会環境のなかでコンピュータ及びソフトウェアの安全性について考えてゆくための方法を学習します.
ビジネス要求分析 [応用科目群]
- 講師: 妻木俊彦
- 8コマ,1単位
ソフトウェアに対する要求は,その基底でビジネス活動の変革を志向しています.効率的なビジネス活動を実現するためには,ビジネスそのものをモデル化し,それをもとにビジネス戦略を決定しなければなりません.ビジネスをモデル化するにはいろいろな方法がありますが,本講座では,ゴール指向技術を中核にしたビジネスモデリング法について学習します.
超上流要求工学 [応用科目群]
- 講師: 中谷多哉子,妻木俊彦
- 15コマ, 2単位
多様化と不透明化が急激に進行している現代社会のなかで,真に意味のある情報システムを構築するには,問題領域そのものの正確な理解が欠かせません.本講座では,人が本来的にもっている発想力を使って対象を理解するための方法を学習します.ロジカルシンキング,ソフトシステムズ方法論,KJ法は,それぞれソフトウェア工学以外の分野で,問題そのものを理解するための方法として発展してきた手法です.最後に,これらの方法をもとに,問題そのものにアプローチするための要求工学手法を学習します.